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Special Interview

渡辺潤平さん

コピーの作り方|法務省 人権啓発キャッチコピーコンテスト審査員を務める渡辺潤平さん(コピーライター)に聞くキャッチコピーの作り方教えてください

目にした瞬間に興味を引かれ、なぜだかずっと心を離れない。
そんな「キャッチコピー」に、あなたも出逢ったことがあると思います。
プロのコピーライターは、どのようにして
インパクトのあるコピーを生み出しているのでしょうか?
当コンテストの審査員であり、これまで数々の名コピーを
世に送り出してきた渡辺潤平さんにお話を聞きました。

キャッチコピーでは「どう言うか」より「何を言うか」が大切

渡辺さんは普段コピーを考えるとき、どのような手順で考えていますか?

まず、商品や企画に触れて、自分の中から出てくるものに素直に向き合ってみますね。そうして自分が言いたいことは何なのかを探していきます。

探すときに、手がかりとなるものはありますか?

僕らは幸い、クライアントと打ち合わせができるので、そのときにできる限り、相手の想いや商品の情報などをじっくり聞くようにしています。

そうした打ち合わせの機会がない公募では、どうしたらいいでしょう?

募集要項をよく読むことでしょうね。そして主催者が、このコピーを世の中に広めることで、どういう効果を期待しているのかを、自分の言葉にしてみる。今回の公募でいうと「心のバリアフリーを推進する」っていうのはつまり、「いろんな壁をなくす」ってことなのかなとか、自分なりにかみ砕いて解釈するのが第一歩じゃないでしょうか。

今回の「人権」のように大きなテーマは、考えるのもなかなかハードルが高いと思いますが、どのように向き合えばいいですか?

テーマは大きくても、自分に身近なことから考えるのが、ひとつの手かなと思います。たとえば法務省のホームページを見ると、人権啓発活動には17のテーマが掲げられているようなので、その中で「子どものいじめ」や「外国人差別」「性的マイノリティ」など、自分が当事者であるかないかは別にして、“自分事”にできる題材から考えていくんです。

なるほど、そうすると人権問題も身近になりますね。

そうして浮かんできたコピーを、幅広く人権問題全般に当てはまる表現に置き換えると、いいと思います。

コピーを考えるときに、一番大切なのはどんなことですか?

言いたいことの「核」をはっきりさせることだと思います。公募でときどき、言いたいことが2つ以上入ってしまっているコピーを見ますが、これはどっちつかずになるので止めたほうがいいでしょう。

何を言いたいのかを、はっきりさせるということですね?

コピーを作る作業は「何を言うか」と「どう言うか」に大きく分けられますが、僕は「何を言うか」のほうに、時間と体力の8割方を費やします。そのやり方で、「どう言うか」で工夫した人より上に行けるって信じているんです。

「ありきたりではないか?」と疑う視点を持つ

「どう言うか」については、どんなことに気を配ればいいですか?

コピーには「驚かせる」「笑わせる」「共感させる」など、いろいろなプロセスがあります。その中から題材の雰囲気に寄り添ったものを選ぶのが重要ですね。攻撃的な商品にはアグレッシブなコピーが合うだろうし、みんなに好かれるような商品なら言い方も柔らかくなります。

「人権」だったら、どういう表現が合うんでしょうか。

普段の生活の中で身近な話題になるよう、みんなが愛着を持って使ってくれて、使ううちにどんどん好きになっていくような言葉が良いですよね。

既存のもので、そういう息の長いコピーはありますか?

僕が一番憧れるコピーなんですけど、「そうだ 京都、行こう。」ですね。「そうだ」も「行こう」も、何にも特別な言葉は使っていないけれど、長く使われるほどに、ワインやウイスキーみたいにどんどん熟成されていくコピーですよね。

今回の「人権」には、そういう言葉のほうが合いそうだということですね?

たとえば、少し前に流行った「忖度」のような時流をつかまえた言葉は、今その瞬間に、モノを売るのには向いているけれど、東京オリンピック・パラリンピック後も継承していくことが求められる今回のコピーには、向いていないかもしれませんね。

他にはどんなことに気をつけたらいいですか?

「ありきたりではないか」と疑う視点は持ったほうがいいですね。ちょっと考えただけで思いつくような案は、誰でも思いつくと考えたほうがいいです。僕が「月刊公募ガイド」で連載している「コピトレ!」に届く作品も、3分の2くらいは誰かのコピーと被っていますね。

それを防ぐには、どうしたらいいのでしょうか?

僕は若手の頃に、「耳から脳味噌が出るくらい書け!」って言われました。1つの商品に300本くらいコピーを考えさせられ、すごく苦痛でした(笑)。だけどこれは他の人が考えそうなものを追い出すための作業だったんですよね。数を考えたその先に他の人じゃ思いつかないコピーが出てくるんだとわかるようになってからは、抵抗がなくなりました。

今でもたくさん書かれるのですか?

似たようなコピーがないかという恐怖は常にあって、自分の書いたものをいつも疑い続けています。締切のギリギリまで考えることで、類似コピーが出ないようにするのがプロの矜持だと思っています。

経験の多さが、その人独自の表現を生み出す

渡辺さんにとって、いいコピーとはどんなもので、それを書くためにはどんなことが必要だと思いますか?

僕は、いいコピーは書いた人の人格が見えるものだと思っています。だけど、どんな優秀なコピーライターでも知らないことは書けませんよね。幅広い題材について、自分の人格が入った言葉で書くには、やはり見たり聞いたり経験するしかない。だから僕は、経験できることは何でも経験しておく“経験フェチ”なんです(笑)。

経験したことはずっと忘れないものですか?

経験したときに起こった感情を、漠然と終わらせないで、きちんと言語化しておくことが大切でしょうね。そうすることで自分の中に記憶され、必要なときにふと取り出せたりするんです。

でも渡辺さんは仕事が忙しくて、経験のために自由に使える時間も少なそうですよね。

それは大きなジレンマです。でも「経験をしよう!」と言っても、世界一周に出るだけが経験じゃありませんから。普段の仕事の中にも経験の「種」はたくさんあって、たとえばこのコンテストも、まさか法務省の方とお会いして打ち合わせをすることが、自分の人生の中であるとは思ってもいませんでしたから、貴重な経験です(笑)。

日常の中にも経験はあるんですね。

ダラっと生きていても人は24時間何かを経験しているわけで、それをどう吸い上げて自分のものにできるか。つまり何でも面白がることが大事なんだと思います。

そうした経験がその人独自の表現につながるんですね?

そうですね。公募で80歳の方が送ってきたコピーに、これまで見てきたもの、感じてきたものの違いを感じて嫉妬することもありますし、16歳の、口語でも文語でもない、指先から生まれてくるようなリズムに驚かされて、ワクワクすることもあります。審査員をするときも「自分の引出しにはなかった表現だな」と思う作品を選ぶことが多いですね。

では最後に、コンテストに挑戦する人にメッセージをお願いします。

この「人権啓発キャッチコピー」のコンテストは、ちょうど夏休みに募集が始まりますよね。小中学生のみんな、長~い夏休みは、ヒマでしょ?(笑) そんな子どもたちが伸び伸びと楽しんで書いてくれたキャッチコピーも大歓迎ですし、幅広い世代からたくさんの応募があることを期待しています!